出版物


「SCRMと人道支援ロジスティクスの現在」 近代科学社 サポートページ

(目次)

・第1部:SCRM

  1. 松川弘明:サプライチェーン見える化
  2. 久保幹雄:サプライ・チェイン・リスク管理
  3. 中島健一:リバース・サプライチェーンにおけるリスクマネジメント

第2部:人道支援ロジスティクス

  1. 花岡伸也:人道支援ロジスティクスの国際研究動向と東日本大震災における空港運用の実態と課題
  2. 間島隆博:災害時における救援物資の輸送体制とシミュレータ
  3. 小林和博:人道支援サプライ・チェインにおける数理モデル

(誤植等)

 

 

序文

サプライチェーンリスク管理と人道支援ロジスティクス

序文

東日本大震災の後のSC(サプライ・チェイン;サプライチェーン)の途絶は,我が国だけでなく世界中に影響を与えた.当時は,SCの途絶に対処するためのSCリスク管理(SCRM)と名付けられた学問体系は黎明期であり,主に事例の収集や抽象論を展開するだけであった.そこで,この分野を確立し,かつ実践するためにSCRMフォーラム(Supply Chain Risk Management Forum)が設立された.その後,災害後のロジスティクス活動に関わる人道支援ロジスティクスが,SCRMと同じ構造をもつことから,並行して研究を進めるようになり,研究者と実務家の両者が知恵と情報を出し合うことによって,実現可能でかつ有効な技法の体系化を目指して活発に研究が行われた.SCRMフォーラムの主な目標は,以下の2点である.

・大規模途絶に対して,頑強かつ柔軟かつ復元性に富んだSCを設計・管理・運用するための技法と手順を確立する.

・大規模災害時における効率的かつ効果的なロジスティクスを実現するための理論体系である人道支援ロジスティクスを進化させることによって,従来の箱物的な防災でなく,効率的かつ効果的な「準備」と「対応」の技法と手順を確立する.

対象とする研究分野は膨大であり,研究はまだ道半ばであるが,今までの成果を纏めておくことは,今後我が国に訪れるであろう大規模災害への準備のために必要であると考え,出版物として世に問うことにしたのが本書である.

本書は大きく2部から構成される.

第1部は,SCRMに関する研究成果である.

第1章の「サプライチェーン見える化」松川弘明(慶應義塾大学)では,SCにおけるリスク・レジリエンスの概念の明確化,見える化の重要性について述べた後,著者らの最近の研究である「見える化システム」について詳述するとともに,物品識別コードの標準化と事業継続のマネジメントについて解説している.

第2章の「サプライ・チェイン・リスク管理」久保幹雄(東京海洋大学)では,SCにおけるリスク・在庫の分類について述べた後,SCRMに対する種々の数理モデルを提案し,実験的解析によって実務に有効であると考えられる様々な知見を得ている.

第3章の「リバース・サプライチェーンにおけるリスクマネジメント」中島健一(神奈川大学)では,リバース・サプライチェーンの概念とその基礎になる製品ライフサイクルと分解・再製造モデルを解説した後で,不確実性リスクを考慮したリバース・サプライチェーンモデルを提案している.

第2部は,人道支援ロジスティクスに関する研究成果である.

第4章の「人道支援ロジスティクスの国際研究動向と東日本大震災における空港運用の実態と課題」花岡伸也(東京工業大学)では,人道支援ロジスティクスの基礎概念の解説ならびに従来の研究の詳細な分析を行った後で,東日本大震災における空港運用の実態と課題について事例分析を行っている

第5章の「災害時における救援物資の輸送体制とシミュレータ」間島隆博(海上技術安全研究所)では.(東日本大震災を含む)我が国の過去の大震災におけるロジスティクスの詳細な分析を行った後で,国や自治体が策定している計画の概要をまとめている.さらに,筆者によって構築された災害時輸送用に開発された物資輸送シミュレータと,それを元にしたシミュレーション結果について述べている.

第6章の「人道支援サプライ・チェインにおける数理モデル」小林和博 (海上技術安全研究所)では,数理計画についての基礎理論とリスクへの対処法について概観した後で,通常時のSCにおける数理モデルと人道支援SCにおける数理モデルを紹介している. 特に,途絶状況下での指標の整理と人道支援SC特有のモデリングについては,多くの紙面を割いて丁寧に解説している.

SCRMも人道支援ロジスティクスも,我が国にとっては最重要課題であり,行うべき研究も実践も課題が山積みである.SCRMフォーラムは継続して実施したいと考えており,共にこの難しい課題に取り組みたいと考えている研究者ならびに実務家の方なら誰でも歓迎する.フォーラムと本書のサポートページは

https://www.logopt.com/scrm/

である

最後に,SCRMフォーラムへの著者たち以外の参加者の皆様(五十音順;敬称略:石川友保(福島大学),岩田由紀夫(三井化学),奥村誠(東北大学),開沼泰隆(首都大学東京),

五代浩志(三井化学),小林啓二(宇宙航空研究開発機構),鈴木定省(東京工業大学),

真道雅人(宇宙航空研究開発機構 ),武田朗子(東京大学),渡部大輔 (東京海洋大学),ならびに,本書が完成するまでの間に激励を頂いた近代科学社の小山社長に感謝の意を表したい.

 

2015年  4月

編者     久保幹雄,松川弘明