サービスネットワーク設計(ケーススタディ6)
注意:このケーススタディは,幾つかの企業のコンサルティングから抽出したもので,特定の企業を想定したものではない.データや登場人物は,架空のものである.
前職でロジスティクス改革に成功したあなたは,ロジスティクス専門カンパニーにヘッドハンティングされた.この会社は,広域の3PLを行う老舗であるが,長年の感と経験に基づく意思決定に限界を感じており,最近データ収集のプロジェクトを終えたようだ. 新任早々,あなたは,収集された全拠点間データを渡され,分析するようにと命令された.さて,何から始めれば良いだろうか?
例によって,データの概要を調べることから始めよう. 与えられたデータは,以前のメーカーの例とは異なり,今度のデータは拠点間のデータのようだ.
拠点は全部で10箇所あって,主に北日本中心に営業をしている.この表で与えられているubは拠点の積替え容量,vcは積替えの変動費用を表している.また,lat,lonは緯度・経度であり,これをもとに地図上で移動時間と距離を計算する.また,拠点を地図上に描画しておく.
name | ub | vc | lat/lon | ||
---|---|---|---|---|---|
0 | 札幌市 | 783978.32 | 1.0 | 43.06417 | 141.34694 |
1 | 青森市 | 783978.32 | 1.0 | 40.82444 | 140.74000 |
2 | 盛岡市 | 783978.32 | 1.0 | 39.70361 | 141.15250 |
3 | 仙台市 | 783978.32 | 1.0 | 38.26889 | 140.87194 |
4 | 秋田市 | 783978.32 | 1.0 | 39.71861 | 140.10250 |
5 | 山形市 | 783978.32 | 1.0 | 38.24056 | 140.36333 |
6 | 福島市 | 783978.32 | 1.0 | 37.75000 | 140.46778 |
7 | 水戸市 | 783978.32 | 1.0 | 36.34139 | 140.44667 |
8 | 宇都宮市 | 783978.32 | 1.0 | 36.56583 | 139.88361 |
9 | 前橋市 | 783978.32 | 1.0 | 36.39111 | 139.06083 |
拠点間に集約されたOD需要量のデータも与えられている.ここでODとは,Origin-Destinationの略で,需要の発地点と着地点を表している.
このように,広域拠点間輸送最適化は,工場から顧客への一方方向のモノの流れだけではなく,多対多のモノの流れを考える必要がある.
ここでは,OD間の需要は,都道府県の人口をもとに重力法と呼ばれる手法で計算したものである.
重心法では,人口を質量と考え,質量の重い者同士は引き合う力が強く,かつ距離に反比例する形で需要が定まると仮定している. OD需要量をヒートマップで図示すると以下のようになる.
この図から,大きな都市間の需要が大きいことが確認できる.
トラックの種類は1種類とし,容量は1000と推定されている.
地点間の移動距離と移動時間は,道路距離を地図から計算することによって算出する.
移動費用は,トラックの燃料費を除く変動費は距離に比例し,人件費と燃料費は移動時間に比例するものと仮定して,1kmあたりの費用は20円, 1時間あたりの費用は8000円と設定して計算する.
解くべき問題は,サービスネットワーク問題と呼ばれる問題であり,拠点で積替えを行い荷物を集約してトラックの積載率を向上させることによって総費用を最小化することを目的としている.
費用は,トラックの費用の他には,積替え費用がある.
数理最適化モデル
この問題は数理最適化モデルとして定式化でき,市販のソルバーで解くことがでいると期待された.しかし,このタイプの問題は非常に難しく,たった10拠点の問題例でも,許容時間内に解を算出することができなかった.
そこで,拠点間のパスで使う可能性のあるものだけを生成し,近似的に求解する方法をとることにした.拠点間ごとに費用の安い方から10本のパスを生成したとき,積替え費用98853円, トラック費用1656448円,総費用1755301円の解が得られた.
さらに,必要なパスを随時追加する勾配スケーリング法と呼ばれる専用解法を試したところ,積替え費用102847円, トラック費用1633083円,総費用1735930円の解が得られた.
地図上に描画するとトラックの移動は複雑で,他の拠点から前橋市に向かう荷物の移動経路だけを描画すると,途中で積替えを行って荷物を集約していることが分かる.
配送最適化再び
サービスネットワーク設計の結果を上司にプレゼンしたところ,荷物を途中で積み合わせることにいよって費用が大幅に削減できることは理解したが,トラックの輸送経路はどうするのかと質問された.さらに取締役へ報告したところ,配送費用が正しく評価されているか調べるように命令された.
あなたは,デジャブをみているような錯覚を覚えたが,当然,配送最適化を行わなければならない.
今回は,以前の会社で行ったミルクラン形式の配送計画ではなく,長距離輸送を伴う計画を建てなければならない.長距離輸送では,輸送業者との契約によりデポに戻ってこなくても良い場合もある.もちろん,法令に伴った休憩も考慮する必要がある.
幸い,METRO IVは,休憩や始点(終点)を指定しないパス型の輸送も考慮できるように設計されている.
輸送業者に聞いたところ,長距離の場合には,帰りに運ぶ荷物を自分たちで見つけたいので,出発地点に戻らなくても良いということが分かった.
求解したところ,全部で22台のトラックで処理できることが分かった.
総移動時間は606255秒,移動距離は12344977mであり,サービスネットワーク設計ではm1kmあたりの費用は20円, 1時間あたりの費用は8000円と設定していたので,
606255*8000/3600+ 20*12344977/1000 = 1594133 円
となる.サービスネットワーク設計でのトラック費用は1633083円であったので,98%(誤差2%)であり,良い近似であることが確認される.
ガントチャートとを描画すると,以下のようになる.
休憩を法令に準じて4時間おきに30分入れているので,無駄な待ち時間が挿入されているが,その後に仕事が無い場合には,切れば良い.
ルートの一部を地図上に描画すると,少ない荷物は積み合わせ輸送しているようだ.
本ケーススタディで使用したのはサービスネットワーク最適化システム SENDO (SErvice Network Design Optimizer)と配送最適化システム METRO IV (MEta Truck Routing Optimizer)です.SENDO とMETROは,サプライ・チェイン最適化システムSCMOPT に含まれています.
SCMOPTデモ&トライアルはこちら