Gurobi社による数理最適化の現状に関するレポート
Gurobi Optimization, LLC(数理最適化ソルバーを開発&販売している数理最適化分野では非常に有名な会社)が数理最適化の現状に関するレポートを発表したのを見つけましたので,簡単にまとめてみました.元のレポートリンク(英語)
このレポートは,2020年に実施されたGurobi社の顧客へのアンケート(有効回答数251)調査のデータに基づき出されたもので,社会における数理最適化の影響とその重要性が分かるレポートだと思います.
一言でまとめると,数理最適化は,幅広い業種の企業で使われており,数理最適化を使うことによるビジネスメリットが大きいことから企業内での重要性が増しているとの内容です.
1.どのような企業が数理最適化を使用していますか
業種
数理最適化は様々な分野で使われていて,この調査でも42の異なる業種の企業から回答が得られました.
その中で,最も多かった3つの業種は,物流,テクノロジーサービス,電力で,続いて教育/非営利,金融/保険,農業/林業などになっています.
数理最適化専門家の数
小さなスタートアップからグローバール企業(Fortune 500の85%含む)まで様々な規模の企業が数理最適化を使用しています.
また,数理最適化は高度なAI技術(広義のAI)であり,特定の専門スキル(特にモデリングスキル)を持つ人材が必要なため,これらの企業はオペレーションリサーチの専門家,高度な分析の専門家,データサイエンティストを雇用するか,外部のコンサルタントに数理的最適化の導入と活用を依頼しています.
この調査では,専門的な人材を2−5人雇用していると回答した企業が最も多かったです.
アナリティクス戦略策定者は
これまで,数理最適化アプリケーションやその他の高度な分析プロジェクトは戦略的な優先事項とは見なされず,企業のIT部門に追いやられていました.
しかし.現在では膨大な量の高品質なビジネスデータが利用できるようになっていることや,数理最適化や機械学習などのAI技術の進歩もあることから,これらの技術に投資する企業が増えており,自社の高度な分析戦略の策定と推進を主導するC-levelの幹部も増えています.
この調査では,企業全体のアナリティクス戦略の策定を主導しているのは,CEOが24.3%,CTOが19.5%,Head of Analyticsが18.6%でした.一方,特定のプロジェクトによって推進していると答えた回答者も約38%いる結果になりました.
2.誰が数理最適化を使用していますか
ユーザの背景
数理最適化は,従来では,オペレーションズ・リサーチ分野で良く使用されていましたが,現在は,データサイエンス,コンピュータサイエンス,エンジニアリングなど様々な分野の背景を持つ専門家の間でも注目を集めています.
この調査(商用ユーザのみを対象に集計)でも最も多かったのはオペレーションズ・リサーチ分野の背景を持つユーザでしたが,エンジニアリング分野38%,コンピュータサイエンス分野29.6%,数学分野25.9%,データサイエンス分野19%など他分野の背景を持つユーザの割合も多きことが分かります.特に興味深いのは,データサイエンス分野のユーザの割合が,2019年の調査より17%増えたことです.
ユーザの社内での役割
以前は,オペレーションズ・リサーチの専門家が数理最適化アプリケーションの主なユーザーでしたが,より使いやすいインターフェイスを備えたアプリケーションが登場したことで,様々なビジネス部門の人々が数理最適化技術を利用するようになっています.
この調査の結果では,63%近くの人がオペレーションズ・リサーチ以外の肩書を持っており,その中で,データサイエンスが14.4%,分析やエンジニアリングがそれぞれ9.3%でした.また,その他と回答した人の中には,CEOやCTOなど組織の最高層のメンバーもいることが分かりました.
ユーザの経験
企業が組織内のミッションクリティカルなアプリケーションに数理最適化技術を導入し,使い始めると通常,これらの技術をかなりの期間使用することになります.
この調査の結果からもその傾向が分かります.数理最適化の経験が4年以上と回答したユーザが58%近くおり,その中で,10年以上の経験があると答えた回答者も26%近くいます.
3.企業はどのように数理最適化を使用していますか
一般的な使用例
数理最適化の主な強みの1つはその汎用性です.数理最適化ソルバー や最適化アルゴリズムは様々なアプリケーションに組み込まれていて,複雑な実際問題に対する最適な意思決定を行うのに使用されています.
今回の調査で,回答者は,幅広いビジネス上の問題に取り組むために数理最適化を使用している,または使用する予定であると答えています.その中で最も多かったのが,計画(52.5%)で,続いてオペレーション(42.4%),物流(41.9%),スケジューリング(36.4%)などでした.
開発方法
一般的に,企業が数理最適化ソルバーを導入・利用する方法は大きく分けて2つあります.
1)アプリケーションをカスタムメイド
社内,または外部のコンサルタントがアプリケーションをカスタムメイドし,その中にソルバーを組み込む
2)既製のカスタマイズ可能なソフトウェアを購入
サードパーティのソフトウェアベンダーが構築したソルバーが組み込まれているアプリケーションを購入する
どちらのアプローチも一般的ですが,今回の調査では,回答者の77.7%がアプリケーションをカスタマイズしていると回答し,16.8%が既製のアプリケーションを使用しているか,既製のアプリケーションとカスタムメイドのアプリケーションを組み合わせて使用していると回答しました.
ビジネスメリット
数理最適化は様々な実績のある技術で,世界中のさまざまな業界の企業に効率性と収益性の面で多大な利益をもたらしてきました.実際,数理最適化を用いて何十億ドルものコスト削減と収益アップを実現した企業もあります.
数理最適化の特徴の一つは,ビジネス目標(例えば,作業費用,作業員の残業時間を最小化したい,機械の稼働率を上げたい,リスク調整後の投資リターンを最大化したいなど)を設定し,それを数式で表現できれば,数理最適化がその目標を達成できるような答えを自動計算できることです.
今回の調査の結果からも分かるように,資源利用率の最大化(57.9%)、利益の最大化(53.4%)、収益の最大化(42.7%)が実現できたなど,数理最適化は様々なビジネス成果の実現に貢献しています.
企業内での重要性アップ
企業にとって必要不可欠なアプリケーションに数理最適化が組み込まれることが増えていることや,ビジネスに大きな価値をもたらしていることなどから数理最適化技術が,これらの企業の意思決定者に重宝されるのは当然のことです.
調査結果からも企業内での数理最適化の重要性が増していることが分かります.58.9%の回答者は,数理最適化がより重要になったと回答しており,37.2%の回答者は,以前と変わらないと回答しています.
機械学習との組み合わせ
数理最適化と機械学習は補完関係にあり,これらを組み合わせたアプリケーションを構築・展開する企業が増えています.調査でも回答者の約半数(46%)が数理最適化と機械学習を併用していると回答しました.
数理最適化と機械学習の併用には様々な方法があります.例えば,機械学習予測を数理最適化ソリューションのインプットにしたり,数理最適化ソリューションを機械学習予測のインプットにしたり,通常機械学習で求める分類,予測などの問題の最適解を数理最適化で求めたりすることができます.
弊社は,数理最適化アプリケーションの開発&販売や,長年の数理最適化モデリングに関する知見を生かしたコンサルティングを行なっています.
取り扱っている最適化ソルバー:
数理最適化ソルバーGurobi optimizer:幅広い最適化問題を解くことが可能
配送最適化ソルバーMETRO,配送最適化システム:各種制約付きの配送最適化問題を高速に求解可能
制約最適化ソルバーSCOP:大規模組合せ最適化問題を高速に求解可能
eg.人員配置最適化,生産スケジューリングなど
eg. 生産スケジューリング,プロジェクトスケジューリングなど
*現状,全ての種類の最適化問題を効率よく解くアルゴリズムやソルバーはありません.Gurobiも非常に高性能ではありますが,一部苦手な問題もあります.OptSeq,SCOP,METROは主にGurobiが苦手なタイプの問題を解くのが得意なソルバーです.